間違いなくほぼイキかけている小野但馬守政次。まさに放送コードギリギリの演技です。『ああ……次はシ〇ンベンだ』という台詞が飛び出しても全く違和感ありません。しかも、これは直虎を後見役から引き摺り下ろす奥の手をGETした時に浮かべた表情というのが怖い。直虎を己の足元に屈服させる優越感と、直虎の憎悪を買う被虐の愉悦。何れのシチュエーションを思い浮かべながら、その快楽に浸っているのでしょうか。まぁ、真相は己の悪名と引き換えに直虎を守る武器を手に入れた安堵の表情ではないかと思いますが、何れにせよ、小野但馬守政次の抱える闇は深い。素直に『俺がやっていることは全て、井伊家のため、おとわのためなのだ!』と口にできれば幸せなのでしょうけれども、切実に生きればこそ、白黒つけるのは恐ろしいのが戦国の世。敵を欺くには味方からというのが兵法の常道。それゆえ、政次は『大人の秘密』を守っているのかも知れません。政次の中の人が出演していた民放ドラマの主題歌を彷彿とさせる内容となった今回のポイントは4つ。
1.御前賀 夕菜(1991~ 博多)
寿桂尼「出家あがりの女子に何を手こずっておるのやら」
小野政次ならずともおまえがいうなと全国の視聴者が心の中で突っ込んだに違いない、寿桂尼の台詞。烈海王が『中国武術ごときに手を焼くとは情けない』というくらいに違和感があります。そんな寿桂尼の口から下る直虎の召喚命令。事実上の死刑宣告ですね。こういう事態にならないために今まで政次が頑張ってきたというのに……そんな政次の苦悩も露知らず、彼の同道という事態に際しても、
井伊直虎「何かあれば即座に政次を人質に捕れるということでもあります」
と昨年のスズムシのような物騒極まりないことを考える主人公。指導者としては成長したと見てよいかも知れませんが、人間的にはダメになっている気がしないでもありません。そんな直虎への反発から同道を拒否する中野ジュニア。まぁ、おめぇはそれでいいや。どう見ても龍潭寺のメンツのほうがステータスの平均値(或いは合計値)が高そうだし。
2.舞台は群馬ではありません
南渓「ここにおっても、直虎様をお助けできることがある、とすればどうじゃ?」
今回は調理実習大河の特性がいいほうに転がったといいますか。今までの、特に直虎が後見人に就任して以降の伏線やら物語上の疑問点やらが奇麗に回収&昇華された内容でした。その典型が上記の場面。先回、脅迫状の誤字脱字を見た直虎が、村人に字を教えることになっていたのは覚えていましたが、あの時点では大して意味のある描写とは思えない、取り立てた才気のないヒロインが、形ばかりのいいことをする場面という印象を受けました。しかし、まさか、それが終盤での逆転劇に繋がる伏線とは……ここは素直に頭が下がりました。ヒロイン周辺の人々による署名活動での逆転劇というと、
おにぎり女の悪夢
を想起せずにはいられませんが、本作では徳政令や逃散といったキーワードを通じて、当時の農民たちが持つ底力を描いてきたので、違和感なく受け入れることができました。何よりも、そうした力が先回までは主人公に敵対する存在として描かれていた分、味方についた時の頼もしさも倍率ドン、更に倍。最初から味方にいるメンバーよりも、ライバルキャラが味方についた時のほうがありがたみも増すのと同じ理屈といえるでしょう。
3 あぁ……次はシ〇ンベンだ
小野政次「厠です」
傑山「御一緒致します」
小野政次「一人で行かせて下さい」
冒頭の画像でネタにした言葉が、まさかの現実となるのではないかとwktk……じゃない、ヒヤヒヤした一幕。厠くらい、一人でいかせてやれよ! いかせてやれって! おまえみたいなマッチョに後ろに立たれたら、出るものも出ないって! 皆が皆、平八郎に背後に立たれても普通に用足しできるお兄ちゃんみたいな大人物ではないんやで。まぁ、傑山は政次が厠と偽り、直虎を害するのか、或いは政次が逃げ出したところで今川の討手が襲撃する手筈になっているのかと疑っているのでしょうけれども、生理現象さえも疑惑の目で見られてしまう政次が不憫でなりません。
しかも、翌日の襲撃本番に際しては、
井伊直虎「逃げるんだよぉぉぉ!」(CV:杉田智和)
といわんばかりの見事な回れ右&前進を見せた主人公。この潔さが直親にあれば、彼は死なずに済んだと思いますが、政次としては『この女に本当に守る価値があるのか』という根源的な疑問を生じてもおかしくない場面でした。討手に斬られそうになる主人公を助けるか否かで随分と逡巡していたのも、単に今川に己の背信を悟られなくないという心理ばかりではなかったのではないかと思います。
そんな直虎を救ったのは中野ジュニア。遠矢でビシバシと今川の討手を倒した割に、物陰から現れた時は弓を携えていなかったのは御愛嬌でしょう。多分、弓を使わずに素手で矢を投擲したものと思われます。文明の利器を使いこなせない分、無駄に武力は高いようですね。武力72知力13くらいでしょう。井伊家にはトータルバランスのいい武将は一人もいないのか……。
4.CV:玄田哲章
井伊直虎「『小野但馬に後見職を譲って、自分は井伊に戻る』といったな。あれは嘘だ。何者かの襲撃を避けるべく、但馬を隠れ蓑にして参上した。まるで反省していない。徳政令に関しては、今川家の守護不入の原則に従ったに過ぎない。何? 法律は更新されているから徳政を執行せよ? つまり、それは私を井伊の行政執行者と認めるということだな? 承知した。返事は聞いていない。では、さらば!」
小野政次「」
寿桂尼「」
これまた、昨年のスズムシを彷彿とさせる口八丁手八丁で窮地を切り抜けようとする主人公。やっぱりねぇ、登場人物が知恵(含む悪知恵)を使って困難を乗り越えるのが大河ドラマの醍醐味ですよ。最初から他人の善意や誠意に期待するような筋書きはダメ。その点、全知全能を尽くしたうえで、今回の村人たちの書状のように善意や誠意が解決の鍵になるという展開は素晴らしい。おとわ時代の生還劇はどういう理屈で釈放されたのかイマイチ判りませんでしたが、今回は納得の筋書きでした。中野ジュニアに変装するという突拍子もないアイデアも、第一話&第二話で伏線が張られていたので、至極普通に受け入れることができましたが、それよりも、今回個人的にツボッたのは男装の直虎のメイク。衣装は中野ジュニアのものなのですが、全体的なメイクはラオウに酷似しているのですよね。もしかすると、直虎は無意識のうちに申し開きに失敗して殺された直親パッパのリベンジを果たす気持ちがあったのかも知れません。政略的には勝利というには程遠い、現状維持を追認させたに過ぎなかった直虎ですが、心情的には初めて、今川に一矢報いてやったという思いであったことでしょう。
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